最新のピロリ菌のお話
日本ヘリコバクター学会が30周年を迎え、その記念誌と最新の学会雑誌をもとに、皆様に最新のピロリ菌の話題をお届けします。
2013年にピロリ菌ピロリ菌感染胃炎の除菌が保険認可されてから除菌数が累計約1千万を超えました。その結果40年間にわたって5万人前後と変化が見られなかった胃がん死亡者数が減少し始めて、2022年には約4万人となり約20%も減少しました。これは保険認可により飛躍的に増えたピロリ菌除菌の成果です。そしてこの減少は除菌の直接の効果というより、除菌に伴い保険で義務付けられた内視鏡検査による早期胃がんの発見頻度が増えたことが大きいと、前ピロリ菌学会理事長(北海道大学名誉教授)の浅香正博先生は述べています 1)。しかし2017年頃より除菌者数の増加のスピードが鈍ってきました。ピロリ菌に関心のある人の除菌がほぼ終了に近づいてきたためと推測されます。しかしいまだに2千万~3千万人のピロリ菌感染者が除菌されずに残っており、大きな課題となっています。
我が国の胃がんの原因の約98%がピロリ菌感染であることが明らかであり、その除菌によって胃がんの発生が抑制されることも立証されており、当クリニックでも今後さらに除菌歴のないピロリ菌感染者の除菌に尽力したいと思っています。
- ① 若年者胃癌について 2)
若年者胃癌は全年齢の胃がん患者に比べて女性の比率が高いことが解っています。若年者胃癌の組織型は悪性度の高い未・低分化型癌の組織型が多く、進行癌の状態で発見されスキルス胃がんの形態を取り、予後不良の場合が多いのです。49歳以下の胃がん患者の組織型は未・低分化型癌が51.7%と高く、組織型の面からも早期発見を目的とした子供のピロリ菌検査の重要性がわかります。
未分化・低分化型腺癌の99.4%はピロリ菌感染が原因とされており、未・低分化型癌の多い若年者胃がんの予防が重要です。以上よりピロリ菌学会でも中学から高校時にピロリ菌検査や除菌を行うことが、胃がん早期予防に重要としています。
また、学童期のピロリ菌検査・除菌治療は中高年で発症する高分化型腺癌の母地である萎縮粘膜をつくらせないことに加えて、若年期に多い予後不良の未分化・低分化型腺癌を予防するという意味でも重要だと述べています。
若年者胃がんは決して多くはありませんが、発見時には進行して予後不良の経過をたどることが多く、中高生でのピロリ菌検査・除菌治療を勧めることが重要とされています。当クリニックでも、親がピロリ菌感染者や除菌歴のある場合は可能な限りその子供のピロリ菌検査を啓蒙していきたいと思います。
- ② ペニシリンアレルギーの方のピロリ菌除菌について 3)
ピロリ菌の1次除菌・2次除菌に共に必要な薬剤であるペニシリンは、ピロリ菌がペニシリンの耐性を獲得しづらいというデータにもとづいています。しかしペニシリンアレルギーは薬物アレルギーのなかで最も一般的で、約5~15%がペニシリンアレルギーを有すると言われています。
ペニシリンアレルギーのあるピロリ菌感染患者に対して、10日間のタケキャブ(ボノプラザン)・メトロニダゾール・グレースビット(シタフロキサシン)の3剤併用(VMS)療法を施行して、高い除菌率を得られたとの論文があります3)。
これはピロリ菌除菌においては胃内のpHが5以下を保持する時間が重要で、タケキャブの強力な酸分泌抑制効果がグレースビットもしくはメトロニダゾールの抗菌作用を高めた可能性が考えられるとされています。
以上より10日間のVMS両方はペニシリンアレルギーを有するピロリ菌患者に有用であり、メトロニダゾールとグレースビット両方に耐性がある場合も高い除菌成績を示したと述べられています。
当クリニックでは以前より、ペニシリンアルルギーの患者様や2次除菌失敗例の患者様にはこのVMS療法を行っており、高い除菌率が得られております。今後もこの治療法を行いピロリ菌除菌率を上げていければと思っております。
以上、最新のピロリ菌に関する話題を提供させて頂きました。
今後もかなや内科クリニックでは、学会や文献等の最新の知見を皆様にご提供して
皆様が少しでもピロリ菌について興味を持って頂き、一人でも多くのピロリ菌感染者の除菌を行って、最終的に胃がんの予防につながるお手伝いをしていきたいと思っております。
ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にクリニックにお問い合わせ下さい。
<参考文献>
- 1) 日本ヘリコバクター学会30周年記念誌
北海道大学 名誉教授 浅香正博先生 - 2) 日本ヘリコバクター学会誌vol26No.2
本邦における若年者胃癌の現状
遠藤広貴、垣内俊彦、水口昌伸、高良吉迪、樋高秀憲法
鶴岡ななえ、白石良介、坂田資尚、江崎幹宏 - 3) 日本ヘリコバクター学会誌vol26No.2
ペニシリンアレルギーH.pylori感染症例に対する10daysVMSの有用性
安藤裕子、森英毅、舟山武鴻、松崎潤太郎、猪口和美、岡沢啓
吉岡政洋、齋藤義正、鈴木秀和、金井隆典、正岡建洋
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